に泌みた。
 その太鼓の音は、ただ平和な民衆の気持ちに通じるものがあった。
 伯母が暮してる田舎では、盆踊りの囃に、三味線ではなく太鼓が使われるのだった。太鼓の音につれて、老若男女が夜更けまで踊り楽しみ、その円舞の中央に明るく焚火が燃え続けるのである。
 十内は広場のベンチから立ち上り、上衣に露の玉となってたまってる雨滴を払い落した。もう晴れ晴れとした顔付だった。五十万円の紙幣がはいってる手提鞄を、ぼろ屑のように打ち振りながら、しっかりした足取りで、濡れた地面を踏みしめて歩み去った。



底本:「豊島与志雄著作集 第五巻(小説5[#「5」はローマ数字、1−13−25]・戯曲)」未来社
   1966(昭和41)年11月15日第1刷発行
初出:「文芸」
   1951(昭和26)年9月
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年1月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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