に三十三という歳は魅惑がある。それが、崎田さんと酒場なんかやることになって、うかうかと三十三を通りこしてしまった。今になってみると、ずいぶん昔のような気もする。それほどわたしの心情も変ってしまった。夫のことだって、遠い思い出にすぎなくなった。
鏡を見つめてみると、額の皺の数が多くなり、眼尻や口許に小皺が目立ってきた。笑ってみると、それらが殊にはっきりしてくる。髪の生え際の額の皮膚が、へんにてらてらしてきたようだ。そういうことがわたしは悲しい。いつまでも若々しくしていたいのではない。忍び寄ってくる老いの影が、過去からわたしを遠ざけるのだ。それは構わないとして、現在のわたしに何があるだろうか。酒場のマダムという稼業だけで、何にもない。何にもない。わたしは念入りにお化粧をするようになった。商売柄、あまり派手に目立ってもいけないので、ほんのりと匂う程度に、ずいぶんと苦心をする。
こんなことをして何になるのかと、時には反省してみる気分にもなる。頼りないのだ。世の中が、自分自身が、頼りないのだ。この人ならと、頼りにしていた高木さんまでが、よく識るにつれて、だんだん頼りなくなってきた。
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