髯が伸びており、頬は蒼白く肉が落ち、眼は凹んで底光りがしていて、どこからそういう変化が来たのか捉え難かった。軽い驚きで眺めていると、ふと可笑しな比較が私の頭に浮んだ。今迄の彼の顔を殼のままの鶏卵であるとすれば、今の彼の顔は、殼をはいだ白身と黄身とだけのそれだった。そして私は或る聖い恐れをさえ感じた――臨終にぱっと輝く生命の光り、それに対するような聖い恐れを。でも彼は、熱も下り脈もよほど順調になっていて、平静な呼吸をしていた。
「気分が大変いい。」と彼は云った。
「昨夜つい遅くなったものだから……。」と私は弁解するように云った。
「そうだってね、よく眠れたかい。」
「ああ。」
「僕は非常によく眠れる時があったり、ちっとも眠れない時があったりするんだが、どんな場合にでも眠るのはいいことだね。でも、昨夜は眠れなくて却っていいことをした。」
「いいことって……。」
「お影で月を見たよ。いい月夜だと君が云ったのを思い出して、それが是非見たくなって、あの人とさんざん云い争って喧嘩をした揚句、とうとう雨戸を開いて貰って、障子の硝子から眺めたんだが、沈みかけた半分ばかりなのが実に綺麗だった。……が不思
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