と忘れはてた様子で、当り障りのない挨拶をして、少くとも表面は黙殺で一切のけりをつける、とそういうつもりだった。変に相手の気持を探ろうとするようなことよりも、呑気を装ったこの芸当なら、私にもよく出来そうだった。所が病室の前までくると、変に何か重苦しいものに威圧される心地がして、頬の筋肉が独りでに硬ばってくるのを覚えた。
 吉岡は仰向きに寝ていた首を少し私の方へ向けかけたが、すぐにまた元の姿勢に返った。私は少し離れた所に坐りながら、云訳でもするような調子で云った。
「ぶらりと散歩に出てみた所が……。」その時、先刻見た東の空を出たばかりの綺麗な月が私の頭に映った。「あんまり月が綺麗なものだから、当もなく歩いてるうちにこの近くまで来たので、一寸寄ってみた。外はいい月夜だよ。」
「え、そんなにいい月なのか。」
 何気なく云ったことが不思議に強く反応したので、私は少し面喰った。
「なに、平凡なただの秋の月なんだが……。」
「そりゃあ月に変りはないさ。」
 切り捨てるように云い放って、電燈をまじまじと見守ってる顔の、骨立った所々に光を受けて、肉の落ちた凹みには、仄暗い影が匐い寄っていた。それを何気な
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