ない。これは真理ですよ。うまくいきましたね。」
「うまくいきすぎてる。」
 気のない返事だ。何か他のことを考えてるらしい。
「いや、そうばかりも云えませんよ。策戦がよかったんです。そら、ここを御覧なさい。随分あぶなかったじゃありませんか。売りにまわってるところを、値はずんずん上っていく、追証《おいじき》に追証と重ってきたじゃありませんか。それを三ヶ月ももちこたえたからよかったようなものの、もし短気を起すか、怖気を出すかしていたら、随分結果がちがってきたでしょう。」
「そんなことは問題じゃない。」
「では何が問題なんです。」
「必ずあたるというのが不思議だ。」
「まだそんなことを云ってるんですか。あたるのが当然じゃありませんか。天井をついたと思う時に売り、底をついたと思う時に買う、そしてそれが見当ちがいで、天井でなかったり底でなかったりすることがあっても、もちこたえるだけの余裕と胆力とさえあれば、何か大変な……革命みたいなものでも起らない限りは、株の値は時計の振子と同様ですから、やはり或る意味で、天井は天井になり、底は底になろうじゃありませんか。だからあたったことになる。ちっとも不思議じ
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