髪が乱れ、顔が蒼ざめていたが、坂田は髪こそ乱しているが、晴れやかなすがすがしい顔で、眼差しに力がこもっていた。
二人は東の空の明るみを見ながら、それに眺め入ってる様子をしながら、手を握りあっていた。やがて敏子は力つきたかのように、静に頭を坂田の肩にもたせかけた。坂田は彼女を長椅子につれていった。そしてそこで、互によりかかって、肩と肩とを抱きあいながら眼をつぶった。
彼等はそうして眠ったのかどうか、実際判断がつかなかった。時々、どちらかがうっすらと眼を開いてはまたつぶった。二三十分おきくらいにそうするのだった。
六時頃、日の光がさしてきてから、二人は立上った。曖昧な微笑をかわして、それきり眼をそらした。坂田の一本の櫛で、二人とも髪をなでつけた。敏子は室の中を見廻し、隣室の中まで見廻した。それから二人そろって出ていった。
一時間余りたって、坂田は一人で戻ってきた。まだ女中たちも寝ていた。坂田は大きく伸びをして、それから、ぐるぐる室の中を歩きだした。ふしぎに顔の色艶が、どこか不健康なものを含みながら、輝きだしていた。殆んど一時間くらい彼は歩いていた。ただ機械的に無意識に歩いているよう
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