によることも多かったようでした。
飲み疲れても檜山はまだ立ち上ろうとせず、一人ぽつねんと、脇息にもたれ、両腕を組んで、憂鬱そうな溜息をつくことがありました。菊千代はかいがいしく卓上の小皿物などを取り片付け、きれいにウイスキーの瓶だけにして、足附きグラスを檜山の前に差し出しました。
「さあ、おしまいにもう一杯、元気をつけていらっしゃいよ。それとも、ハイボールにしてきましょうか。」
眼鏡の下にうすら閉じかけてる眼を、檜山はびっくりしたように見開いて、菊千代を眺めました。
「君、まだいたのかい。」
「だって、僕が帰るまで帰っちゃいけないって、恐ろしい見幕だったわ。いつもそうなのよ。」
「そうなんだ。だから… 感心してるよ。」
「感心はいいけれど……。」
「ちっと、迷惑なんだろう。」
「いいえ。ただね、檜山さん少し心細いわ。」
菊千代が深々と見入ってくるのを、檜山は避けて、ウイスキーを一息に飲み干しました。そして真摯な眼色になりました。
「君の言うことは分るよ。だが、まあ当分は大丈夫だろう。」
「足がかりが出来てきたの。」
「出来やしないさ。だが、そう易々と滑り出しもしないよ。」
「危い
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