とは九州の田舎の隣村に生れ合したというだけで、全くの他人じゃありませんか。
で私は、折角彼に好感を持ち初めたのに、変にそぐわない気持になって、苦笑を洩しながら云いました。
「随分無鉄砲だな、そんな相談はちっともなしに、いきなり僕のところへ飛び込んでくるなんて……。この通り、家じゃとても駄目ですよ。」
「それじゃあ、下宿屋でも探さにゃなりませんかしらん。」
「まあそれより外に……。だが、毎月五十円ずつ来るというのは確かでしょうね。」
「ええ確かです。もう千円ばかりアメリカから送って来とる筈ですから。」
「それなら何も心配はいらない。気持のいい素人下宿でも探すんですね。ただ、布団だけは持っていないと大変不経済だし、借りたのでは長い間の辛棒は出来ないから、すぐに送って貰うように云ってやったらどうです。」
「そうしましょう。」
そこで、布団が来るまで彼は一時私の家にいることになりました。
母上
平田伍三郎が私の家にいたのは、二週間ばかりの間だったと覚えています。そして彼は、当にしていた私の家に長く居るわけにはゆかず、やがて一人で下宿へ移らなければならないことを、別に悲観した風もなく、四
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