群集
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)間《あいだ》には
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)四五歩|歩《ある》き
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説1[#「1」はローマ数字、1−13−21]
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大正七年八月十六日夜――
私は神保町から須田町の方へ歩いて行った。両側の商店はもう殆んど凡てが戸を締めていた。大きな硝子戸や硝子窓の前には蓆を垂らしてる家が多かった、間《あいだ》には板を縦横に打ちつけてる家もあった。街路が妙に薄暗かった。黙々とした人影が皆須田町の方へ流れていた。「今夜は須田町から小川町をぬけて神保町の方へ来るそうだ、」と誰が云ったとも分らない言葉が私の耳に響いた。電車がぬるい速力で走っていた。
然し街路は静まり返っていた。一向「来そう」に思えなかった。
須田町の四辻には黒山のような群集が屯《たむろ》していた。僅かに電車の通れるだけの空地を残して、黙った人影が街路に溢れていた。その上、電車の数も非常
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