住み、僕は会社に勤め、君は加津美で働く……。」
「そんな面倒なことしなくても、わたし、今のままでいいわ。」
「今のままではうまくいかないと、君が言い出したんだよ。」
「だから、くにへ帰ろうかと思ったの。」
「然しね、くにへ帰りっきりに帰るのは、僕と別れることになるよ。まさか、僕まで一緒に連れていくつもりじゃあるまい。」
「あなたに百姓は出来ないわ。わたし一人で帰るの。」
「どうも、君の言うことは分らん。いったい、どうするつもりなの。僕と別れたいんなら、そう言ってくれよ。」
「いや、別れたくないのよ。あなたとは、もう別れたくない。それが、わからないの。」
炬燵の上につっ伏して、彼女は泣きだしてしまった。
私はもてあました。全くめちゃくちゃなのだ。何の筋道も立ってやしない。ヒステリー……或いは気が変なのか。然し、これまでそんなことは一度もなかった。彼女はいつも控え目で、内輪にしか物を言わず、駄々をこねることがなかった。それが、どうしたというのであろう。ウイスキーにさほど酔ってるとも見えなかった。むしろ私の方が酔いかけていたのだ。
突然、一つのことが頭に閃めいた……妊娠。
私は彼女の
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