て、黙って坐りました。巳之助は弱々しい微笑を浮べました。
「すっかり済んだかね。」
「済みました。」
巳之助は暫く黙っていたあとで、言いました。
「椎の木などを、へんに問題にして、少しおかしかったよ。」
「別に問題になすったわけでもありますまい。」
巳之助はそれには答えませんでした。然し、やがて、ちょっと布団の上に坐って外を眺めたいと言いだしました。幹夫と看護婦は眼を見合して、言うがままにさした方がよかろうと了解しあいました。
看護婦に援け起されて、巳之助は布団に坐りました。幹夫は縁側の硝子戸を開けました。外は静穏な日和でした。
斜陽が流れていました。庭の外れ、崖の上、一面に斜陽が流れ注いでいました。そこにはもう椎の古木はなく、晴れやかな空間がありました。その方へ、巳之助はまぶしそうに眼をやり、次でじっと瞳を据えました。そして二度大きく頷きました。
「うむ、実によい……まったく……。」そして彼はもう一度頷きました。そしてなおじっと見つめていましたが、突然、眩暈がするとかのように、顔を伏せ震える手をあげて額を押えました。幹夫と看護婦はあわてて、彼を床に寝かしました。
それから二
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