てました。
それを上から押っ被せるように、巳之助は言いました。
「実は、一つ厄介な仕事があるんでね、これは、植木屋にも棟梁にも手に負えまいから、頭《かしら》に引き受けて貰いたいんだが、どうだろう。」
仕事のこととなると、栗野老人はきっと顔を挙げました。
「椎の木のことでございましょう。若旦那から承りました。」
巳之助はじっと相手の顔を見ました。
「やってくれるかね。」
「お任せ下さい。伐り倒すばかりか、薪なら薪、木っ端なら木っ端と、お望み通りにこなして御覧に入れます。椎の木ってやつは、情けないもので、木材としての用には立ちませんな。ですが、あれが焼けちまったのは、残念でした。私共が赤ん坊の時から、今通りの大きさでしたから、どれぐらい年数を経たものでしょうか。この界隈の目標で、お邸の大黒柱でしたからな。あれが焼けちまったのも、まあ、お邸の身替りに立ったものと、そう思っちゃいますが、まったく、惜しいことをしました。あのままで、上枝をおろして、苔をつけさせ、蔦でも絡ませるのも、風流なものだろうと、若旦那にも申しあげましたが、そうした庭の造作には、なんとしてもちっとでかすぎて目立ちすぎま
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