古木
――近代説話――
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)八手《やつで》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24]
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終戦後、柴田巳之助は公職を去り、自宅に籠りがちな日々を送りました。隙に任せ、大政翼賛会を中心とした戦時中の記録を綴りかけましたが、それも物憂くて、筆は渋りがちでありました。一方、時勢を静観してみましたが、大きな転廻が感ぜられるだけで、将来の見通しは一向につきませんでした。そして索莫たる月日を過すうち、病気に罹りました。
初めは、ちょっとした感冒だと思われましたが、やがて不規則な高熱が続き、それが少し鎮まる頃には、心臓の作用が常態を失していましたし、かねての糖尿病も悪化していました。医者は首を傾げました。
鉤の手に建てられた家屋の、一番奥の室から、廊下を距てて、床高に作られた書院が、病間でありました。
気分がよく天気もよい時、柴田巳之助は、障子を開け放させ、縁側の硝子戸ごし
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