ゃあ、どうしてお父さんに分ったんだろう。私も云やしないし……。」
「何でも分るのよ。」
「え、なぜ。」
「なぜだか、何でも分るの。だからあたし、恐いわ。」
光子は眼を据えて、縋りつくように彼の顔を見入ってきた。彼は唇をかみしめた。
「これから、何でも私が引受けてあげます、ね。みな打ち明けるんですよ。そして、お父さんに叱られるようなことがあったら、私のところへ逃げていらっしゃい。」
「そんなことをして……。」
「構やしません。あんなひどい……。」
彼は変に不気味な気持と憤ろしい気持とを同時に感じた。
それをじっと我慢して、いろいろ光子を慰めてやってから、階下に降りてゆくと、房子が茶の間で針仕事をしていた。その善良な鈍感な顔を見て、彼はいきなりきめつけてやった。
「光子さんはやはり、恐い夢をみて夜眠れないんです。それを今迄放っとくなんて、余りひどいじゃありませんか。」
「まあー、夢をみて眠れないのですって……。」
「そうです。それもあなた達が、差配をだますために、嘘を本当のように云わせようとしたからです。」
房子は彼の激しい調子に、きょとんとした顔付で呟いた。
「わたしは止めたんで
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