のまま投ってあるような、不自然な位置を占めていた。その石から一二尺離れて、半円形に断続の地割れがして、その一端に、一尺足らずの細長い穴が、斜めに深く、横広がりにあいていた。棒を突込むと、柔かな泥の感じでずるずるはいりこんで、それから先は石の壁のような固いものにつき当った。穴の周囲を足で踏むと、石との間の地面だけが、五寸ばかり崩れ凹んだ。石の下深く、大きな洞窟にでもなってるかのようだった。
「片山さん、何してるの。」
或る時、娘の光子が、家の中から見付けてやって来た。
「あら。」
大きくなった穴と彼の顔とを、じろじろ見比べていたが、俄に真面目な顔付になった。
「そんなことをすると、お父さんに叱られるわよ。」
「え、どうして。」
「危いんですって。」
「なぜ。」
「なぜだか……この辺で悪戯《いたずら》をしちゃいけないって、お父さんがそう仰言ったの。」
「じゃあ、この石の下に何かあるの。」
「知らないわ。」
光子は実際何にも知らないらしかった。
彼は棒を投げすてて、首を傾げた。
二
――或るところで、古金銀貨幣、時価約三千円ほどのものを、庭の隅から掘り出した。維新当時、壺に納めて埋めてあったものらしい。
そういう新聞記事を、彼は二階の室に寝そべって、心の中で繰り返していた。馬鹿馬鹿しいが、それだけにまた空想を誘われた。
ふと、半身を起して眺めると、檜葉や椿の茂みごしに、庭の奥の穴のところに、人影が動いていた。彼が幾度かなしたと同じように、棒切で穴の底をつついてみたり、穴のまわりを踏んでみたりしている。それが、主人の松木庄作だった。
ははあ………という気持と、太い奴だ……という気持とで、彼はのっそり立上って、階下の縁側へ降りていった。
庭の植込の影から、松木は陰欝な顔付でやって来た。朝早くから何処へともなく出かけて行き、夜分になって帰って来て、訳の分らない書類と睥めっこをしてる、いつもの通りの顔付だった。
「今日はお出かけじゃないんですか。」
「ええ。」
ぶっきら棒な返事だけで、縁側に来て腰をかけた。
「何でしょう、あの向うの穴は。」
「さあー、土竜か何か……。」
事もなげに答えて、彼の顔をじろりと見た。が暫くすると、ふいに口を開いた。
「あの分だと、上の石がめり込んでしまうかも知れません。」
「いい石ですね。」
「何に使ったものですか
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