ーモフを描かせた。自由主義の思潮は、ツルゲネーフにバザロフを描かせた。そして新らしい性格は目的意識に支配された公式的作品の中におけるよりも、そうした意識に囚われない作品の中により多く見出される。アンリ・バルブュスの作中の人物によりも、ルイ・フィリップやフランシス・カルコの作中の人物に、吾々はより多くプロレタリアの真の姿を見出す。
 だが、新らしい性格を描くことは、如何なる時代の如何なる文学にも共通の肝要事である。プロレタリア文学が開拓した特殊の領土は他のところにある。
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 真夜中すぎに、沖で、音が聴えた。トン・トン・トン・トンと――たしかに、発動機の音だ。それが、聴えた。近づく気配だった。部落全体の者が、ワーッと叫び声を上げて、吹雪のなかを、浜辺へ、駆け出した。そして、何も見えない真暗な沖を見ようとして、焦り、耳を凝らした。そして、待った。が、たしかに聴えた機械らしい音は、いつの間にか、聴えなくなっていた。が、みんなは、吹雪に顔を打たれながら身体を固くして、ゾクゾクと奈落へ沈んでゆく気持とたたかいながら、立ちつくした。――そして、みんなは、先刻のあれは、遠い沖を走
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