るところにある。そして説明が主となったのは、目的意識があまりに露骨に働いたからに外ならない。
[#ここから2字下げ]
百二十五人の女工が一列に並んだ。みんな腰の周りだけに四角い布を垂れていた。
――前イ――
と四十面の女工監督が気取って号令した。
女工たちは汗と肌の匂いを発散させながら歩きだした。
乾燥室はその性質上から二階にあったので階段を降りねばならなかった。梯子段の下には高さ一尺の横板が立ててあった。それは「オマタギ」と称ばれていた。
女工監督が横板と女工たちの膝前に目をそそいだ。
一人一人の女工は、体操をするように股を水平に上げて横板をまたがせられた。それは紙幣や切手などを何処かにかくしていないかと検べる為であった。
向うの現場の階段下でも素裸の男工たちが一尺五寸の横板をまたがせられていた。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ](「紙幣乾燥室の女工」――岩藤雪夫)
この「オマタギ」の一節は、決して吾々の眼にその情景を彷彿させはしない。ただ吾々の観念に訴えるだけで、感性に何物をも伝えない。作者は他の目的意識に囚えられて、この情景を素通りしてしまっている
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