、よくも来やがった、と待ちかまえていたように見えた。ガツガツに飢えている獅子のように、いどみかかってきた。船はまるで兎よりもっと弱々しかった。空一面の吹雪は風の工合で、白い大きな旗がなびくように見えた。夜近くなってきた。然し時化は止みそうもなかった。
仕事が終ると、皆は「糞壺」の中へ順々に入り込んできた。手や足は大根のように冷えて、感覚なく身体についていた。皆は蠶のように各の棚の中に入ってしまうと、誰も一口も口をきくものがいなかった。ゴロリ横になって、鉄の支柱につかまった船は、背に食いついている虻を追払う馬のように、身体をヤケに振っている……。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ](「蟹工船」――小林多喜二)
この一節を読むと、「ように」という比喩がひどく多いのが目につく。そしてこの比喩は、実際の情景を鮮明ならしめるよりも、むしろそれをぼかし弱めるのに役立っている。
なぜそういう結果を来したか。それは、「蟹工船」全篇の出来栄えから考えても、決して作者の才能の乏しい放ではない。対象の把握の仕方が足りない故ではない。病弊は作者の態度そのものにある。描写よりも説明が主となって
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