ばかりとらねばならなかったことを私は遺憾に思うのであるが――いろいろな主張や作品は、文芸に新らしい領土を開拓した。これまでの文芸は、人間の行動を主にその対象としていた。心理解剖でさえも、全く行動の説明のためのものであった。然るに新らしい心理探求は、人間の内部の世界――精神の世界――の広大さを発見して、写実主義或は自然主義が外部を描写しようとしたように、その内部世界を描写しようと試みる。いわば、外部の現実のほかに精神内部の現実を発見して、それを如実に描写しようというのである。
 ところで、この新らしい描写の対象となる精神の内部世界――意識の世界――は、広く深い潜在意識或は無意識の海洋に浮かんでる一小島に過ぎないし、それ自身錯雑を極め変転限りないものであるから、随ってその描写も理路整然たることは不可能である。
 この方向を辿る時、小説はおのずから解体され、その様式は破壊される。在来の小説という概念にあてはまらない作品が生れてくる。プルーストの「失いし時を索めて」やジョイスの「ユリシーズ」などはその例である。
 小説の様式を破壊し、小説という概念から脱却して、新らしい作品を生むということは、
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