的な世界に属する。

      心理的探求

 新らしい感覚で現実を見直すということは、干乾びた芸術を新鮮にする第一条件ではあるが、更に外に現われた可見的なものに止まらずに、その内部にまではいりこんでみようという努力がなされる。それが人間を対象とする時には、人間の内部生活――精神生活にまでふみこむことになる。そうして人間の内部を覗いてみると、如何に雑多な情意の錯綜がそこにあるか、如何に奥深い世界がそこに横たわっているかに、今更ながら驚かされる。その世界を探求し闡明しようとするところから、心理主義の小説が生れる。
 固より、如何なる小説でも、心理を全然無視したものはない。人間は心意の動きによって行動する以上、人間を描くに心意の動きを除外することは出来ない。ただ、自然主義が外部の現われを主として辿るのに反して、心理主義は内部の心理を直接に描こうとする。自然主義が外部から人間を見ようとするのに反して、心理主義は内部から人間を見ようとする。
 こういう心理主義は、古くからあったもので、あらゆる時代に存在していた。そして現代の新らしい心理的探求から生れてきた心理主義とは、全く面目を異にしている
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