ま長く苦しめるのは堪らないことだった。が回復の望みは更に少なかった。腹痛に唸りながら歯をくいしばってる彼女の側に、彼は拳を握りしめた両腕を組みながら、その大きな腹をじっと睥みつけた。切り開いて中の何かを掴み出したら、というような残忍な考えまで起った。
 彼女は唸り声をはたと止め、歯をぎりぎり喰いしばって、異常な力の籠った両手を、ぐっと肩の方へ持って来た。見開いた眼が据っていた。痙攣を起したのだった。
 腹痛を我慢してるのか痙攣を起してるのか、見極めのつかないこともよくあった。
「もう駄目でしょうか。」と順造は坪井医学士に尋ねた。
「今の所はまだ大丈夫のようですが、然しあの通りの状態ですからね……。」
 医学士は多くを語らなかった。然しその様子は、殆んど望みのないことを語っていた。
 もはや時期の問題だ!
 然しその底から、絶望的な反抗の気勢が、順造の胸に時々湧き立った。俺がついてる間は死なせない、そう心に誓った。そして彼は出来るだけ病室から去らなかった。少しでも彼女の側を離れると、云い知れぬ不安に駆られた。夜もその室に寝ることとした。
 宿に行って荷物を取って来たい、そして一晩泊ってき
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