になると ただ[#「なると ただ」はママ]にやにや笑っていた。人を馬鹿にしてるのか、或は全く虚心平気なのか、或は少し呆けてるのか、黙ってにやにや独り笑いをしながら、球を並べ直すのだった。その余りに無感情な中性的な笑いに、私はしまいには腹を立てて、彼との勝負を止してしまった。
 その時のと、感じは違うが性質は似寄ってる笑いだった。私がじっと眺めてるのを知ってか知らずにか、彼はやはりにこにこ独り笑いをして、うっとりと空を見つめていた。その眼が、貝殼のような濁った光りではあるが、それが却って一寸美しかった。見ているうちに、私もつい引き込まれて、頬のあたりに笑いが浮んできた。そして私達は一緒になって、何という故もなく微笑み合っていた。
 そこへお光が私の所にやって来た。私は彼女に真正面から微笑みかけた。彼女も頬辺でにっ[#「にっ」に傍点]と笑って応じたが、その顔をすぐに引締めた。
「何だか変でしょう。」
 声を低めた調子がただごとでなかった。
「何が。」
 隈取った小さな眼を無理に大きく見開いて、肩の影から指先で、彼方の青年をさし示した。
「どうかしたのかい。」
「ええ。……そして、あんなに一
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