仲とでも見えそうに、ただぼんやり微笑み合っていた。友人と一緒の時には、僕のマドンナのお光ちゃん、などと冗談に云っていた。
白い天井、白い壁、白い卓子の例[#「例」はママ]、天井から下ってる明るい電燈、勘定場の両側の大きな棕櫚竹、そんなもの凡てが夜更けの空気にしっとりと落着いて、そして私もその中に落着いてしまって、どうかすると我知らずうとうととすることもあった。
「まあ、嫌ね。何していらっしゃるの。」
或る晩もそう云ってお光に起されて、私ははっと我に返った。そして杯を取上げたが、銚子の酒はもう残り少なに冷たくなっていた。
「熱いのを持ってきて上げるから、もっとはっきりなさいよ。」
欠伸《あくび》でそれに答えておいて、あたりをぼんやり見廻すと、先刻の不良少年らしい四人連れや、職人めいた二人連れは、もういつのまにかいなくなって、私一人取残されていた。いやに静かな変な晩だな、と思ったが、その瞬間に気がついた。私一人ではなくて、室の隅っこにも一人青年の客がいた。
二十四五歳のその青年を、私は何度かそのカフェーで見た。カフェー以外でもっと親しく近々と見たような、妙な印象があったけれど、それ
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