きた。
「おい光ちゃん、大変だよ。占いは最初の一番だけだから、この人が僕とのジャンケンに勝ったし、君は皆とのジャンケンに勝ったんだから、君達二人は結婚することになりそうだね。」
「あら嫌だ、そんなこと。」
 くるりと向うを向いて怒った風をしたが、肩がぴくりとして、放笑《ふきだ》してしまった。それで皆も笑い出した。彼もただにやにや笑っていた。
 所が、その皆の笑が沈まって、一寸沈黙が落ちてきた時、妙なことが起った。その夜更に、皆一つの卓子に集って、がらんとした中に白々と電燈がともってる、その閉め切った広い室の、窓の一つががたんと開いて、冷たい影が――空気が、すーっと流れ込んできた。と同時に、彼は物に慴えたように立上った。
「僕はもう帰ります。……勘定をしてくれない。」
 私は呆気にとられて彼の顔を見守った。彼は心持ち蒼ざめて、きょろきょろあたりを見廻したが、突然に云い出した。
「実は、今日は私が心中をしそこなった日なんです。丁度二月前の今日なんです。女は死んでしまいましたが、私だけ汽車にはね飛ばされて、不思議に助かったんです。それから少し頭が変になりましてね、月の同じ日になると、無性に悲
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