るんですって。」
 そして彼は、五円紙幣を一枚其処に投り出して、挨拶もせずに外へ飛び出してしまった。
 私は何だか妙にびっくりして、急いで勘定を払って、にっこりしたお光の頬辺に笑顔で応じながら、彼の後を追っかけて外に出た。
 彼の姿はもう何処にも見えなかった。かすかに露を含んだ爽かな夜気が、酒にほてった肌に快かった。月かげの淡くさしてる綿雲を見い見い、私は恰も夢の中にでもいるような気持で、寝静まってる街路を歩き出した。



底本:「豊島与志雄著作集 第二巻(小説2[#「2」はローマ数字、1−13−22])」未来社
   1965(昭和40)年12月15日第1刷発行
初出:「婦人公論」
   1924(大正13)年7月
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年8月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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