、兵隊が通っている。一寸見れば、暗褐色のうねうねとした一列だったが、それが、劒をかずぎ背嚢を荷った兵士の縦列で、ところどころに、隊側についてる将校の剣が、きらりきらりと光っていた。先頭も後尾も分らず、際限もなく引続いて、一寸した木立や村落の間にうねってる街道の上を、静に……蟻の這うように押し動いていた。丁度自働人形の玩具の兵隊のように、どれもみな四角ばった一様な姿勢で、手足を機械的に一様に動かしていた。
 何かしら或る大きな力……機械的な力に、支配されきってるような行列だった。そして恐らく、声一つ立てる者もなく、片足踏み違える者もなく、粛々として永遠に歩き続けてるのに違いない、と思われるような行列だった。それが、ぎらぎらした日の光の中に、くっきりと而も遠く浮出していた。
 と、不思議なことには、列の中の一人が、棒切でも倒すように、前のめりに倒れ伏した。列が少し彎曲して、倒れた一人をよけて進んでいった。列の切れ目らしいところに、黒く一塊になってる一群が、倒れた兵士をとりかこんで、暫く立止って、拾い取って運んでいった。
 そういうことが幾度かくり返された。然し縦列はどこまでも続いてるらしく
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