たの手紙をみな持って出たんです。そして、夜中に、汽車の中で、一つ一つ読み返しては、小さく引裂いて、みんな窓から投げ散らしてきました。」
「………」
「なぜ泣くんです。泣いちゃいけません。……その手紙の切れが、ちらちらと飛んで、闇の中に消えてゆくのを見て、わたしは胸が一杯になって、涙を落しましたが……。」
「………」
「なぜそう泣くんです。……そんなつもりでわたしは云ってるんじゃありません。今はもう別な気持で云ってるんです。」
「………」
「そうでなけりゃ、こんなことをあなたに話しはしません。誤解しちゃいけません。」
「いいえ、嘘、嘘よ。自分で自分をごまかして……。」
「ごまかしてやしません。こんなに笑ってるじゃありませんか。……どうしてそう泣くんです。」
「あたし、嬉しいの。」
「え。」
「やっぱりそうだったわ。」
「いいえ、違うんです。……わたしは何だか、眼の前がぎらぎらしてきて、丁度……この木影から、日の照りつけてる中に出たような気持なんです。泣いちゃいけません。ね、日の光をごらんなさい。眼がくらむように照りつけている……。」

 丘から遠くに見下せる、白々と横たわってる街道の上を
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