しく、くっきりと浮出していた。
 窓掛を開くと、ぱっと朝日の照ってる爽かな明るみだった。

「なぜ泣くんです。」
「………」
「泣いちゃいけません。笑って下さい……。あなたには、笑顔が一番ふさわしい……。」
「そして、あなたにも……。」
「え、本当ですか。」
「ええ。」
「わたしはこの通り微笑んでいます。」
「あたしも。」
「笑いましょう……。いつまでも微笑み続けましょう。ね、二人で……。」
「あたし……何だか……眼がくらむような……。」
「余り日が照ってるからです。余りぎらぎらした光が強過ぎるからです。けれど……ね、いいでしょう。」
「ええ、どんなことがあっても……。」
「どんなことがあっても……。」
「あたし、いつも笑ってるわ。」
「そうです。」
「あら、あなたは、涙ぐんで……。」
「いいえ、何でもないんです。嬉しいんです。」
「もう何にも考えないの。」
「そして……ただ一つだけ……。」
「ええ、一つだけ、ただ一つだけよ。」
「………」
「ねえ、歩きましょう。あたし、じっとしてると、何だか恐い気がしてきたの。日向を歩くの……丘の上をぐるぐる歩き廻るの。」
 じりじりと真夏の日が照り
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