その友人は、急性腎臓炎で、十日ばかり病院にはいっていたが、経過がよくなく、遂に心臓麻痺で死んだのだった。
 前日から容態が険悪だったので、その晩見舞に行って、夜通しついていてやった。病室には、郷里から出て来た母親と伯父と、看護婦きりだった。
 尿毒症の昏睡状態から、暫く軽い狂燥状態が続いて、それから夜中の三時頃、心臓麻痺でやられてしまった。
 伯父は夜明けに出かけていった。後の三人は病室の片隅に黙然と坐り続けていた。涙を流しつくした後の、呆然とした顔付だった。
 拭き清められて白い布に被われた死体は、寝台の真中に横臥していた。胸部も腹部も薄べったくなって、空気のぬけたゴム枕のように見えた。がじっと見ていると、今にもその胸のあたりがふくらんできて、ほーっと息をつきそうに思えた。いや現に、かすかに息をしているようだった。
 苦しいだろう……というような気持で立っていって、顔の白布を一寸取りのけてやった。瞬間に、凡てがしいんとなって、死体は薄べったく静まり返った。眼が落ち凹み、鼻が尖り、唇が歯にくっついて閉じていた。すっかり色艶を失った顔全体に、何だか蜘蛛の[#「蜘蛛の」は底本では「蛛蜘の」
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