ついて、それに山蟻が一杯たかっていた。蝿が一匹どこからか飛んできて、額の横の方にとまって、びくりびくり羽を動かしていたが、またどこかへ飛び去ってしまった。
灌木の茂みを押し分けて、大勢の人が立並んでいた。時々ひそひそと囁き合っては、またすぐに黙ってしまった。
だいぶたってから、十人余りの人と一緒に、がやがや話声をさせながら、巡査がやって来た。
その時初めて気付いたのだが、太陽の光が木立の茂みの隙間から、無数の小さな明るい線となって落ちていた。溝の縁の歯朶や雑草の葉に、露とも云えないほどの湿りがあって、それが妙に光沢のない輝きを帯びていて、そこに落ちた光の線は、ただぼーっと明るいきりだった。が死人の上には、如何にも晴れやかな斑点が印せられていた。茂みを洩れてくる朝日の光が、そのまま金箔のようになって、死体のところどころにぴたりとくっついていた。頭にも顔にも胸にも、ぽつりぽつりと、拭いても取れそうにないほど、その金箔がくいこんでいた。
中学四年の頃だった。風邪の心地で二三日学校を休んでいたが、初秋のうららかな日脚に誘われて、午前十時頃、家から三丁ばかり裏手の海岸へ散歩に出た。
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