背なかにのせてくれました。そして、崖《がけ》や坂や谷川や森をこして、もとの野原にもどってきました。
羊のむれは、しずかに草をたべています。蝶はとんでいます。小鳥はさえずっています。けれど、エキモスは気がはれませんでした。金色の鹿のかたみの毛皮で、だいじなものをいれる袋をつくって、腰《こし》にさげましたが、かなしさはまぎれません。笛をふく気にも、とてもなれません。
――だれが、あの鹿を、鉄砲でうったんだろう。
そう考えると、くやしかったり、さびしかったりして、どこか旅にでもでてしまいたくなりました。羊たちもかわいいけれど、金色の鹿が死んだかなしみの方が、もっとつようございました。
エキモスはついに決心して、主人のところへいって、ひまをもらいたいと願いました。
主人はエキモスをひきとめたがりました。けれど、その話をきき、そのかなしみと決心とをみて、願いをゆるしてくれました。
「それでは、都でも見物してくるがよい」と主人はいいました。「都にはいろいろおもしろいことがあるから、気がはれるかもしれない。けれど、おもしろいのはうわべだけで、ずいぶん悪い人が多いから、気をつけなければいけな
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