さりしながら、羊のむれのなかににげこみました。がそのおそろしい獣たちは、じっとうずくまったまま、おっかけてはきませんでした。やさしい眼をして見おくっているだけでした。
 エキモスは鈴をならして、羊のむれをつれて小屋へかえっていきました。
 翌日、エキモスはまた羊のむれをつれて、野原にでました。おそろしい鳥や獣はいませんでした。エキモスは安心して、羊たちを野原のなかにちらばして、自分は木かげにやすんで、白い葦笛《あしぶえ》をふきはじめました。とても自分がふいているのだとはおもわれないほど美しい音《ね》でした。天からひびいてくるような歌でした。
 そのうちに、笛の音をききつけて、羊たちは近くにあつまってきました。小鳥たちもとんできました。みんなだまってきいています。それからなお、森のおくの方から、いろんな鳥や獣《けだもの》がでてきました。狼《おおかみ》や獅子《しし》のようなおそろしいのもでてきました。がエキモスはさほどおどろきませんでした。ただ笛をききにでてきたのだということが、そのようすでよくわかりました。
 獣のうちに、五六ぴきの鹿《しか》がいました。大きな角《つの》の頭をかしげて、笛
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