人かげもありません。
八日目の朝、いつも食事をはこんでくれる番人が、エキモスをかわいそうにおもってか、こういいました。
「いよいよきょうは、島にいくんだ。なにかねがいはないかね」
エキモスはすぐにこたえました。
「なんにもありませんが、ただ、なごりに、笛をふかしてください」
「うむ、きいてきてあげよう」
しばらくたつと、番人は白葦《しろあし》でこしらえた銀色の笛をもってきてくれました。
エキモスはとびあがってよろこびました。そのだいじな笛を胸にだきしめて、なみだをながしました。それから一心《いっしん》に、笛をふきはじめました。なんともいえないうるわしい音《ね》がひびきわたりました。エキモスはもうなにもかもわすれて、むちゅうにふきつづけました。いく時間ふきつづけたか、じぶんでもしりませんでした。
そのうち、なんだかさわがしいので、エキモスは気がつきました。そして窓からのぞきみると、びっくりしました。
森のなかいっぱい、鳥や獣《けもの》ばかりでした。鷲《わし》や狼《おおかみ》やライオンのようなおそろしいものもまじっていました。エキモスの笛をききにやってきたのです。牢《ろう》の番人たちはにげだしてしまって、だれもいません。ただ鳥や獣ばかりです。
エキモスは笛をふきやめて、ぼんやりそれをながめていました。ふと気がつくと、森のむこうの野原のなかに、なにかうごいています。だんだんちかよってきます……。たくさんの人が、馬をかけさしてやってくるのでした。
六
エキモスがとじこめられている牢屋へ、馬でかけつけてきたのは、王さまと王子でした。大臣もおともしていました。それからおおくの兵士がしたがっていました。
はじめ、エキモスが牢屋へおくられた時、皮袋《かわぶくろ》は、魔法の袋だといって、大臣から王さまの手にわたされました。王さまはそれを、じぶんの部屋にもってかえって、ふしぎそうにながめました。みごとな金色の鹿《しか》の毛皮でした。そしてその毛をなでてみてるうちに、ふと、魔法とかいうのを、ためしてみたくなりました。
王さまはその皮袋に、銅貨を一ついれてみました。とりだすと、金貨になっています。小石を一ついれてみました。とりだすと、黄金《おうごん》になっています。
王さまは、うれしさに眼をひからしました。そして銅貨や小石をとりよせては、皮袋にいれて、みな黄金《おうごん》にしてしまいました。くたびれてくると、大臣をよびました。つぎには、ごてんじゅうの役人をよびました。小石や銅貨をはこぶもの、それを皮袋《かわぶくろ》にいれて黄金にするもの、その黄金を部屋のすみにつみかさねるもの、おおさわぎでした。黄金がだんだんふえてゆくのをみて、みんなむちゅうになりました。
一日たちました。一つの部屋が黄金でいっぱいになりました。
二日たちました。二つの部屋が黄金でいっぱいになりました。
王さまに、エキモスとおなじくらいな年ごろの王子がありました。王さまはじめみんなが、黄金をこしらえて、むちゅうになってるのをみて、かなしそうにいいました。
「そんなことをして、なにになりますか」
でも、だれもへんじをしませんでした。
三日……四日……五日たちました。五つの部屋が黄金でいっぱいになりました。
王子はいいました。
「そんなことをして、なにになりますか」
だれもへんじをしませんでした。
六日たち、七日たちました。七つの部屋が黄金でいっぱいになりました。
王子はかなしそうにいいました。
「そんなことをして、なにになりますか」
だれもへんじをしませんでした。がこんどは、みんな、たがいに顔をみあわせました。そしてため息をつきました。くたびれていました。なんだかさびしくなっていました。七つの部屋にいっぱいの黄金《おうごん》の山をみて、どうしていいかわからなくなってきました。
王子はいいました。
「石ころをつんでるのと、おんなじではありませんか」
じっさい、黄金ばかりこしらえて、なにになるんでしょう。こうなると、石ころをつんでるのとおなじでした。これまであんなにとうといものとおもっていた黄金も、七つの部屋いっぱいほどになると、どうにもしようがありませんでした。
――ばかなことをしたものだ。
そうかんがえて、王さまは大臣のほうをみました。大臣も王さまのほうをみました。二人ともこまってしまいました。
そして、八日めの朝になると、七つの部屋いっぱいの黄金をまえにして、王さまも大臣の役人たちも、ただため息をつくばかりでした。
そこへ、いちどに、いろんな知らせがまいりました。――人民たちは、エキモスが牢《ろう》にとじこめられて、いよいよ今日は島ながしになるんだということを、いつのまにかききだして、たいへんさわぎたっています。ぜ
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