てて、キシさんは刀を振りかぶりました。その刀がひらりと動いたかと思うと、一人の捕虜《ほりょ》の縄《なわ》が、ぱらりとたち切れていました。キシさんはおどりたちました。見事な手練《しゅれん》と早技とで、捕虜達をしばっている荒縄を、ぶつりぶつりとたち切りました。
匪賊達はどよめきました。混乱がおこりました。
キシさんは、つっ立って叫びました。
「匪賊ども、静かにしろ。今こそ名乗ってやる。玄王《げんおう》のもとの部下、李伯将軍とはおれのことだ。降参すれば命は助けてやる。さもなければ、みな殺しだ。覚悟して、返事をしろ」
太郎もピストルをとりだしました。
捕虜達は李伯将軍の名を聞いて、一度に、わーっと歓声《かんせい》を上げました。たちどころに、匪賊の数人は打ち倒されました。
匪賊の首領《かしら》は、ただ、あっけにとられていましたが、やがて、うなだれて、地面に両手をつきました。
「すみませんでした。ぞんぶんにしていただきましょう」
さすがに首領です。立派な覚悟でした。そこへ玄王が現われました。太郎の妙薬《みょうやく》で病気も治ったらしく、晴れやかな気高い顔をしていました。側にチヨ子がつい
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