い故郷でした。白い塔はもとより、山にも木にも草にも、あらゆるものに見覚えがありました。
馬車のまま城の中にはいって、長く待たされて、それから広間に通されました。
荒くれた人たちがおおぜい、酒盛をしていました。
正面にあぐらをかいてる、首領《かしら》らしい男が、大きなさかずきをおいて、三人のほうをじっとにらんで、いいました。
「手品《てじな》とか奇術《きじゅつ》とかをやるというのは、お前達か。ひとつやってみせろ」
キシさんは、ていねいではあるが、きっぱりしたちょうしでたずねました。
「あなたが玄王《げんおう》というお方でございますか」
「なに、玄王だと……玄王はいま病気だ」
「それじゃあ、奇術はまあやめましょう。金銀廟の玄王のところへといって、連れてこられたのですから、玄王の前でまずやらなければ、奇術の神様が怒ります」
「奇術《きじゅつ》の神様とはなんだ」
「奇術の神様です。私共の奇術は、その神様からさずかった、とうとい術ばかりです。神さまにうそをつくようなことをしてはいけません」
匪賊《ひぞく》の首領《かしら》は、言葉につまってうなりました。そしておこりました。
「ふらちなこ
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