少年は、ふたりをメーソフの所に連れていって、馬車《ばしゃ》を見にきた人だと伝えました。
「案内して、お見せしろ」
と、メーソフはぶあいそうに言いました。
 裏の倉の中には、石だの像だのが転がっていて、うす暗くて、冷え冷えとしていて、すみの方に、大きな馬車がありました。少年が言った通り、古いけれどじょうぶな鉄の馬車でした。
 キシさんと太郎は、メーソフのところに戻ってきました。
「あの馬車は、いくらですか」
と、キシさんがききました。
 メーソフは、じろじろふたりのようすを眺《なが》めてから言いました。
「あの馬車は、売られません」
「え、売られない……でも、見せてくれたでしょう」
「見せてはあげます……けれど、売りはしません」
 キシさんは、しばらく考えてから、また言いました。
「売ってくれませんか。値段のことなら、少しは高くてもいいんですが……」
「いいえ、売りません」
 そして、メーソフの髭《ひげ》だらけの顔の中で、目がぎらりと光りました。
「なぜ売らないんですか」
「なぜでも、売りません」
 ぶあいそうな、ぶっきらぼうな返事なので、どうにもしかたがありませんでした。
 キシ
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