さな猫は、太郎の腕を枕にして、すやすや眠ってるのでした。
 珍しい大雪がとけると、暖い天気が続いて、にわかに春めいてきました。木の芽が出かかり、草の葉が萌えだし、海は平に凪《な》いでいます。
 太郎はチロをつれだして、野原や海岸で遊びました。通りがかりの人達は、まっ白な美しいチロを、立ち止まって眺めました。
 りんごやなしを籠《かご》にかついでる人が、通りかかりました。
「まあ、きれいな猫ですね。どんなものを食べてるんですか」
「なんでも食べるよ」
 と、太郎は答えました。
「りんごでもなしでも、食べるよ」
「では、これも、食べさしてください」
 そしてりんごとなしを、いくつも太郎にくれました。
 みかんをかついでる人が、通りかかりました。
「まあ、きれいな猫ですね。どんなものを食べてるんですか」
「なんでも食べるよ」と、太郎は答えました。
「みかんでも、食べるよ」
 するとその人は、みかんをいくつも置いて行きました。
 大根や芋《いも》や人参《にんじん》をかついでる人が、通りかかりました。
「まあ、きれいな猫ですね。どんなものを食べてるんですか」
「何でも食べるよ」と、太郎は答えまし
前へ 次へ
全74ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング