一緒に、その汚い泥水の中で溺《おぼ》れ死んだんだよ。
 ――その鳥がこれだと、おじさんは言うんだ。短いくちばしは、亀にくわえられて折れたから、長いくちばしだけが残ってるんだって。だからこのとおり、横っちょについてるんだよ。

 そんな話を聞いていると、太郎にはその剥製《はくせい》の鳥がおかしく思われましたし、向こうの泥水の池もおもしろく思われてきました。
「きみのおじさんは、そんな話をたくさん知ってるのかい」
「ああ、いくつも知ってるよ。もっと話してあげようか……。あ、おじさんが起きた……」
 薄い布団《ふとん》に[#「布団《ふとん》に」は底本では「布団《ふとん》んに」]くるまって眠っていた老人が、からだを動かして、そして目を開いて、こちらを不思議そうに見ていました。

 老人は、薄いどてら[#「どてら」に傍点]をひっかけて、起きあがりました。やせ細っていて、顔や手は日に焼けて赤黒く、髪には白髪《しらが》が交っていて、みすぼらしいようすでしたが、目だけはきれいに澄《す》んで光っていました。
 一郎は太郎を紹介《しょうかい》して、これまでのことをくわしく話しました。太郎は自分のことを話し
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