とりすがり、そして二人とも泣いています。
太郎には、さっぱりわけがわかりませんでした。赤土の猫じゃないか……それを。
「金銀廟の猫って、なんですか」
キシさんは、初めて太郎に気がついたかのように、びっくりしたようすで太郎を眺め、それから深くため息をついて、そして話してきかせました。
満州《まんしゅう》に近い蒙古《もうこ》の山奥に、玄王《げんおう》という偉い人がいました。その地方を平和に治めて、立派な国をうち建てようと思っていました。その玄王《げんおう》に、ひとりの小さなむすめがありました。玄王は、まずむすめによい教育を受けさせたいと思って、かねて知りあいの日本人で、大連《だいれん》に大きな貿易店をひらいてる人に、むすめを頼み、李伯将軍《りはくしょうぐん》といわれる強い人をつけてやりました。その日本人の世話で、玄王のむすめと李伯将軍とは、東京で勉強することになりました。
それから二年たって、玄王のところへ、非常に強い匪賊《ひぞく》が襲《おそ》ってきました。激しい戦がありました。玄王は打ち負けたらしい……というだけで、なにしろ蒙古《もうこ》の山奥のことですから、はっきりしたことは
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