動きだして……。
太郎は目をみはりました。すると、それはやはり、赤土の猫でした。彼は頭を振りました。無理に言いました。
「明日、明るい時でなくっちゃ、わからないや」
「よろしい、明日、します」
二人は約束しました。太郎はびくびくした気持ちであくる日を待ちました。
――あんな人だから、何か魔法でも知ってるのかもしれない。いや、赤土の猫が動く、そんなばかなことがあるものか。でもさっき、少し動いたような気もした……。
太郎はいろいろ考えあぐみました。キシさんの禿《は》げた赤い頭が、大きく大きくなっていくようなのを、何度か夢に見ました。
あくる朝、太郎はキシさんと一緒に、庭の奥にやって行きました。松林の中は、すがすがしく、朝日の光が差していました。
ところが、まあ……赤土の猫は、むざんにも、何度かに踏みにじられて、ぺしゃんこなひとかたまりの泥となり、金貨と銀貨とが、その中で光ってるだけでした。
キシさんは、呆然《ぼうぜん》とそれを眺《なが》めました。そして、よろよろと松の木にもたれかかり、今にも泣き出しそうでした。
太郎もぼんやりたたずんでいました。
そこへ、チヨ子がチロを
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