ており、前からつきしたがっていた匪賊達が、後にひかえていました。
キシさんは走りよりました。
「おう、李伯《りはく》か」
「玄王《げんおう》、御無事で……」
あとは言葉もなく、玄王は頭を垂れ、李伯将軍は膝まずき、互いに手をとりあって涙にくれました。
匪賊《ひぞく》の首領《かしら》は降参して、心から玄王に仕えることになりました。が、まだあちこちに、玄王の元の部下もおれば、匪賊達もいます。李伯将軍が万事《ばんじ》指図をして、それらをみな治めることになりました。
チヨ子は、父玄王の国を見せるために、太郎を金銀廟《きんぎんびょう》の塔の上につれて行きました。太郎はチロを抱いて、チヨ子の後について、高い塔の中の、うす暗い階段を昇って行きました。塔の一番上のところは、せまい部屋になっていて、四方に窓がありました。
遠くまで、目のとどくかぎり、見渡すことができました。山があり、森があり、野原があり、川があります。野放しにした羊や馬なども、遊んでいます。
「そんなに悪いところではないでしょう」と、チヨ子は言いました。
太郎は黙って、淋しそうな顔をしていました。九州のおじいさんのことや、大連《だいれん》の松本さんや一郎のことがなつかしく思いだされるのでした。チヨ子にもその気持ちがよくわかりました。
「ねえ、帰っていっちゃ、いけませんよ」
太郎はふり向いて、微笑《ほほえ》んで、チヨ子の手を握りしめました。
「そうだ、不思議な地図があったろう、あれを便りに、この国を立派なものにしていこうよ」
「ええ、立派な国にしましょう。そして、チロの国と名をつけましょうよ」
ふたりは一緒に金目銀目《きんめぎんめ》のチロを抱きかかえて、かたく握手をしました。
底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
1990(平成2)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月28日作成
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