器物が並んでいました。そしてその前に、病人らしい男が寝ていました。
 その病人の側に、チヨ子は立ち止まって、じっとその顔を見ていましたが、石のようにかたくなって、それから、ぶるぶる震えだし、そこにかがみこんでしまいました。
 そのとき、病人はふいに、はね起きました。
「猫のことは、私が知っている。みんなしばらく外に出ていてくれ」
 それを聞いて、ほかの男たちは、外に出ていきました。太郎は入口の見張りをしました。
 そして、太郎がふり向くと、病人とチヨ子とはもうしっかりと抱きあって、泣いていました。病人はそのやせた手で、チヨ子の頭や背中をなでさすり、チヨ子は病人の胸に顔をおしあてて、どちらも黙ったまま、涙を流しています……。
 その病人こそ、玄王《げんおう》だったのです。チヨ子の父だったのです。おたがいに話したいことが、どんなにたくさんあったことでしょう。また、どんなに涙が流れたことでしょう。
 太郎は両腕をくんで、脇の方を向いて、じっと立っておりました。
 金銀廟《きんぎんびょう》の中の部屋で、あたりは、しーんとしていました。

 何もかもすっかり、はっきりしました。
 匪賊《ひぞく》の首領《かしら》は、玄王《げんおう》のふいを襲って、その城をのっとりましたが、負傷した玄王を人質《ひとじち》にとって、金銀廟の中におしこめ、自分は玄王に仕えてる者だ、と、勝手にいって、ふきんの土地を治め、やがてはその王になるつもりでした。けれど、玄王の部下たちがあちらこちらにいて、なかなか思うようになりませんでした。
 しじゅう戦いがおこりました。けれど玄王《げんおう》の部下達も、玄王が人質《ひとじち》になっているので、思いきって攻め寄せることもできませんでした。
 そのことを知っていますので、匪賊《ひぞく》達も、玄王をそまつにはあつかいませんでした。玄王のきずはなおりました、けれども、次には病気で寝つきました。それでも匪賊のうちには、だんだん玄王になついてくるものが出てきました。金銀廟《きんぎんびょう》で玄王の側についてる者たちは、今ではもう玄王の味方でした。
 そこへ、チヨ子が来たのです。玄王は力がつきました。そのうえ、どんな病気にもきくという薬を、太郎がすぐに飲ませておきました。まもなくじょうぶになるに違いありません。
 キシさんは、おどりあがって喜びました。
 朝早く、キシさんは大きな刀を打ち振り、太郎はピストルをポケットにしのばして、捕虜《ほりょ》の首きり役に出かけました。だけど、捕虜というのは、みな玄王の味方の者です。どうするつもりなのでしょうか。
 城の中の広場です。匪賊の首領《かしら》は数人の手下をつれて、見物に出てきました。向こうには五十人ばかりの捕虜《ほりょ》が、荒縄《あらなわ》で縛られ、棒杭《ぼうくい》に結びつけられて、もう覚悟を決めたらしく、うなだれていました。あの不思議なふたりの男も、その中に交っていました。
「見事にやってみせるか」と、首領はキシさんに言いました。
「奇術《きじゅつ》の法でやってみます」と、キシさんは答えました。
「目にも止まらぬ早技《はやわざ》です」
 キシさんは静かに進んでいきました。そして捕虜達の側に立ち止まって、大きな刀を二―三度打ち振りました。その時にはもう、奇術《きじゅつ》師のみなりこそしていますが、目は鋭く輝やき、勇気が全身に、みちみちて、勇ましい李伯将軍《りはくしょうぐん》に変っていました。
 匪賊《ひぞく》達は、何かはっとして、ものにおびえたようでした。
「えー、やーあ……」
 腹の底から、恐ろしい声を立てて、キシさんは刀を振りかぶりました。その刀がひらりと動いたかと思うと、一人の捕虜《ほりょ》の縄《なわ》が、ぱらりとたち切れていました。キシさんはおどりたちました。見事な手練《しゅれん》と早技とで、捕虜達をしばっている荒縄を、ぶつりぶつりとたち切りました。
 匪賊達はどよめきました。混乱がおこりました。
 キシさんは、つっ立って叫びました。
「匪賊ども、静かにしろ。今こそ名乗ってやる。玄王《げんおう》のもとの部下、李伯将軍とはおれのことだ。降参すれば命は助けてやる。さもなければ、みな殺しだ。覚悟して、返事をしろ」
 太郎もピストルをとりだしました。
 捕虜達は李伯将軍の名を聞いて、一度に、わーっと歓声《かんせい》を上げました。たちどころに、匪賊の数人は打ち倒されました。
 匪賊の首領《かしら》は、ただ、あっけにとられていましたが、やがて、うなだれて、地面に両手をつきました。
「すみませんでした。ぞんぶんにしていただきましょう」
 さすがに首領です。立派な覚悟でした。そこへ玄王が現われました。太郎の妙薬《みょうやく》で病気も治ったらしく、晴れやかな気高い顔をしていました。側にチヨ子がつい
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