しました。どういうことをしたか、それは後で申しましょう。
雲もなく風もない、よいお天気でした。あつらえた服や帽子も届きました。それを身につけると、キシさんもチヨ子も太郎も、見たところだけは、立派な手品使いでした。
三人は、町の広場に出かけました。前の日のことがあるので、もう、おおぜいの見物人《けんぶつにん》が集まっていました。だが、手品を使うのは、今日は一郎ではありません。
まず、キシさんとチヨ子とがすすみ出ました。キシさんは長いはしごを持ちだして、それを両手で頭の上に立てました。すると、チヨ子がキシさんの肩に昇り、それからはしごを一段ずつ、ゆっくり、ゆっくり、昇り始めました。キシさんは足をふんばり、両腕に力をこめて、うん……と力んでいます。チヨ子は、だんだんはしごを昇っていきます……。
見物人《けんぶつにん》たちはささやきあいました。
「えらい、力だ」
「力じゃない、芸だ」
「いや、力だ」
「危ないことをするなあ」
チヨ子は、はしごの一番上まで昇りました。紫の服が、日の光に照り映え、帽子の白い羽がちらちらふるえました。そしてチヨ子は、美しい声で歌いました。
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魔法のはしごは、
のびるよ、のびるよ、
天までとどくよ。
天にのぼれば、
五色の花が、
咲いた、咲いたよ、
五色の花が。
[#ここで字下げ終わり]
歌ってしまうと、ポケットから何かとりだして、ぱっと放りました。それは五色のテープで、五色の蜘蛛《くも》の糸のようになって、あたり一面に広がりました。見物人《けんぶつにん》たちは、わっと喝采《かっさい》しました。なんども喝采しました。
今度は太郎の番です。太郎は玉乗りの大きな毬《まり》を持ちだしました。それから籠《かご》の中から何か取り出しました。見ると、金の目銀の目の白猫のチロです。チロは首に大きな鈴をつけていました。太郎は毬の上にチロを乗せました。そして、ひょいと手を叩くと、チロは毬の上に乗ったまま、その毬をころころ動かし始めました。
チョチョチョン、チョチョチョン、チョチョチョン、チョン……太郎の手が鳴ります。ころころ、ころころ……と毬が転がります。チロはちゃんとその上に乗っていて、チリリン、チリリン、チリリン、チン……と首の鈴が鳴ります。太郎が手を叩くのをやめると、チロは四本の足で毬を止めてしまいます。
実に、見事な猫の玉乗りです。わーっと喝采がおこりました。太郎は目に涙をためて、チロを抱きとりました。
ほんとうに成功でした。思いがけないほどうまくいきました。太郎とチヨ子とキシさんとは、うれしさに涙ぐんで、手をとりあいました。一郎は、見物人が放り出してくれたお金を、拾い集めました。
「お金もうかる、お金もうかる」
キシさんがそう言ったので、三人とも笑いました。
そこへ、一郎のおじさんが出てきました。太郎からもらった薬が、不思議によくきいて、元気になってるのでした。そのお礼に、おじさんは手品《てじな》の道具をすっかり譲ってくれましたし、なお、キシさんの方は力技だし、太郎の方は猫の芸だからといって、本当の手品使いの芸を、いろいろ教えてくれました。
「これならだいじょうぶだ」
キシさんも、太郎も、そう考えました。そしていよいよ、興安嶺《こうあんれい》の奥の金銀廟《きんぎんびょう》まで、出かけることに決心しました。
三人は、手品使い……というよりも、奇術師《きじゅつし》になりすましました。松本さん夫婦も、下野一郎とそのおじさんも、ひどくわかれをおしんでくれました。そして、何かことがあったら、松本さんのところに、知らせることに約束しました。
奇術師になった三人は、多くの荷物を持って、大連《だいれん》から船で、山海関《さんかいかん》に渡りました。山海関から先は、奇術をやりながら行くのです。
鉄の馬車《ばしゃ》
山海関で、大事な用がありました。奇術をやりながら、興安嶺《こうあんれい》の山奥まで行くのですから、とちゅうでどんなことが起こるかわかりませんし、道に迷うことがあるかもしれませんので、まず第一に、じょうぶな馬車《ばしゃ》と馬とがいるのです。
馬は、すぐに見つかりました。たくましい、栗毛の馬を二頭買いました。ところが、じょうぶな馬車《ばしゃ》が、なかなかありませんでした。馬車屋に行ってききましたが、ふつうの馬車きりありませんし、新しくこしらえさせるには、大変手間どります。自動車ではだめなんです。それには、キシさんも太郎も困りました。
そしてある晩、むだにあちらこちらたずね歩いたのち、宿屋に帰りますと、並木の下のうす暗いところに、ひとりの少年が、しくしく泣きながら、立っていました。
「どうしたんだい」と、キシさんは親切にたずねました。
少年はなおしゃ
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