おまえ、そのへんのごみ[#「ごみ」に傍点]の中をつついてみないか。何かいるかもしれないよ」
「いやだ」
と、短いくちばしは答えた。
「こんな汚いごみ[#「ごみ」に傍点]の中をつっつくのはいやだ。おまえがつっついたらいいじゃないか」
 そして二つのくちばしは、喧嘩《けんか》を始めたんだよ。長いくちばしはお腹が空いて困るから、ごみの中をつっついてみろと、短い方に言うし、短いくちばしは、えてかってなことを言う奴だと、長い方を怒ったんだよ。いつも何かうまいものがあると、長い方が先に食べてしまった。森の中で美しい果物を見つけたり、川の中できれいな魚を見つけたりすると、長いくちばしが先にそれをつっついて、短いくちばしには、皮《かわ》や骨《ほね》しかくれなかった。それを、短いくちばしは怒っていたんだよ。
 ――「だって、いいじゃないか」
と、長いくちばしは言った。
 ――「お前とおれとは、一つの腹きり持っていないんだから、おれが食べたって、お前が食べたって、同じことじゃないか」
 ――「違うさ」
と、短いくちばしは言い返した。
「お前はいつもうまいものを味わってるし、おれはまずいものばかり、味わってる。不公平《ふこうへい》だ」
 ――そして、いくら言い争ってもきりがないし、しまいにはどちらも黙りこんでしまった。けれど、やはり食べるものはないし、お腹は空いてくるので、長いくちばしはまた、短いくちばしに向かって、そのへんをつっついてみろと言いだしたんだ。短いくちばしはほんとに怒っちゃって、どうなろうとかまうもんかという気で、ごみの中や泥の中をやたちにつっつきまわしたよ。
 ――すると、食べるものはなんにもなかったが、泥の中から、大きなものがにゅっと出てきた。よく見ると、亀《かめ》の首なんだよ。
 ――「危ない、危ない」
と、長いくちばしは叫んだ。
「もうやめろよ。亀《かめ》に食いつかれたら、死んじまうじゃないか。危ない」
 ――「なに、かまうもんか」
と、短いくちばしは言った。
「おまえが無理にさせたんじゃないか。死んだっておれの知ったことじやない」
 ――そして短いくちばしは、半分やけくそになって、わざと亀の頭をつっつくと、亀は怒って、その短いくちばしをくわえたんだ。大きな亀で、短いくちばしをくわえたまま、鳥全体を、泥水の中に引きずりこんでしまった。そして、両方のくちばしとも、鳥と一緒に、その汚い泥水の中で溺《おぼ》れ死んだんだよ。
 ――その鳥がこれだと、おじさんは言うんだ。短いくちばしは、亀にくわえられて折れたから、長いくちばしだけが残ってるんだって。だからこのとおり、横っちょについてるんだよ。

 そんな話を聞いていると、太郎にはその剥製《はくせい》の鳥がおかしく思われましたし、向こうの泥水の池もおもしろく思われてきました。
「きみのおじさんは、そんな話をたくさん知ってるのかい」
「ああ、いくつも知ってるよ。もっと話してあげようか……。あ、おじさんが起きた……」
 薄い布団《ふとん》に[#「布団《ふとん》に」は底本では「布団《ふとん》んに」]くるまって眠っていた老人が、からだを動かして、そして目を開いて、こちらを不思議そうに見ていました。

 老人は、薄いどてら[#「どてら」に傍点]をひっかけて、起きあがりました。やせ細っていて、顔や手は日に焼けて赤黒く、髪には白髪《しらが》が交っていて、みすぼらしいようすでしたが、目だけはきれいに澄《す》んで光っていました。
 一郎は太郎を紹介《しょうかい》して、これまでのことをくわしく話しました。太郎は自分のことを話しました。玄王《げんおう》の娘のチヨ子のこと、李伯将軍《りはくしょうぐん》のこと、金銀廟《きんぎんびょう》のことなどすっかり打ちあけました。そして、そうしながら、持ってきた御馳走《ごちそう》を三人で食べました。
 老人はいちいちうなずいて、おもしろそうに一郎や太郎の話を聞きとりました。
「私も手品《てじな》使いをしてほうぼう歩いたことがあるから、満州《まんしゅう》や蒙古《もうこ》のことはよく知っていますよ。金銀廟のことも、行ったことはないが、話には聞いています。あんたが金銀廟を訪ねて行きなさるなら、よいものを見せてあげましょう」
 老人は、押し入れの中に頭をつっこんでしばらく何かさがしましたが、やがて何枚もの白い紙と、柄《え》のついた大きな眼鏡《めがね》を、取り出しました。
「さあ、その紙を、その眼鏡でのぞいてごらんなさい」
 太郎は不思議に思いながら、その白い紙をひろげて、眼鏡でのぞいてみますと……びっくりしました。ただの白い紙のようですが、その上に、ありありと、いろいろなものが浮かび出てきました。山があります、川があります、道があります、家があります、大きな塔があります、馬車がありま
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