、三角形に積み重ねてあります。米がいっぱい詰まって、きれいにくくりあげられてる、ま新しいものです。
 それを見つけて、太郎は、おじいさんを呼んできました。
「ぼく、びっくりしちゃった。誰がしたんでしょう」
「なるほど、奇特《きとく》なことだ。いまに、その人がやって来るかもしれない……」
 神主をしているおじいさんは、手をたたいて、丁寧《ていねい》に拝んで、戻って行きました。
 いつの間にか、チロも出てきて、米俵を駆けのぼったり、駆けおりたりして、遊び始めました。それを見てると、太郎も、おもしろくなりました。俵と俵とのすきまからのぞくと、望遠鏡でのぞくようです。俵の山の上にのぼると、いい気持ちで、遠くまで見渡せます。朝日の光が差してきて、新しい俵の匂《にお》いがします……。
 太郎はチロといっしょに、俵の山を乗り越えたり、周りをぐるぐる廻ったり、隠れんぼうをしたりして、遊びました。
 近くの木には、雀《すずめ》がたくさん来ていました。太郎とチロが、俵の陰に隠れていますと、やがて、一匹の雀《すずめ》が、俵の上に飛んできて、チッチッと鳴きます。と、すぐに、後から後から、ほかの雀も下りて来ます。時をはかって、チロをさっと放してやると、チロは俵《たわら》の上に飛び上がりますが、雀の方が早く、ぱっと逃げたあとです。
 遊び疲れると、太郎とチロは、俵の上に寝そべって、うとうととしました。それから、また雀の声に目を覚しては、いろんなことをして遊びました。

「太郎や、太郎や……」
 呼ばれて、気がついてみると、おじいさんが、向こうから手招きをしていました。
 太郎はチロを抱いて、家に戻って行きました。すると……せんだって、チロをねだったあの女の人が、今日は、しとやかな和服《わふく》姿で、おじいさんの前に座っています。
 おじいさんは話してきかせました。
「この方が、しばらくチロを借りたいとおっしゃるんだよ。お宮に米を供《そな》えてくださったのは、この方だ。その気持ちがわしの気に入った。いろいろお話を聞いてみると、チロを借りたいと言われるのも、もっともだ。そして、チロを借りている間、おまえも一緒に来てくれとおっしゃるんだ。チロをやってしまうのではない、貸して上げるんだよ。どうだい、おまえ、一緒に行ってあげますか」
 太郎は、おじいさんの顔と女の人の顔とを見くらべて、しばらく考えこみました。
「チロと一緒なら、行ってもいいけれど……なんでも、好きなことをしていいの?」
 女の人の目が、ぱっと大きく光りました。
「ええ、よろしいですとも、なんでも、好きなようにしてください。では、来てくださいますね、チロちゃんと一緒に……ね、来てくださいね」

      金銀廟《きんぎんびょう》の話

 太郎とチロが行った家は、さほど遠くではありませんでした。
 海岸に沿った広い道を、自動車は飛ぶように走ります。岬《みさき》を二つまわって、その向こうの町のはずれ、小高い山のふもとに、二階建ての家がありました。
 大きな家で日本室や洋室が、いくつもありました。主人の松本さん夫婦のほかに、下女《げじょ》や下男《げなん》や馬……そして、一番奥の洋室に、変なふたり……。
 ほんとに、変な人達でした。太郎はそこに連れて行かれた時、びっくりしました。
 かたすみに、立派な長|椅子《いす》の上に、十歳《とお》ばかりの女の子が座っていました。肩のあたりまでの長さの髪を、宝石のついた、留金でとめ、空色の洋服をつけ、白い絹の靴下をはいていましたが、全体が、ほっそりしていて、口もあまりきかず、からだもあまり動かさず、まるで人形のようでした。
 反対のかたすみには、支那《しな》服を着た、大きな男がいました。顔は平たく、長い口髭《くちひげ》をはやしていて、頭がひどく禿《は》げていました。
 その男が、チロを抱いてる太郎を見ると、つかつかと立ってきて、低くおじぎを[#「おじぎを」は底本では「おじきを」]しました。
「おう、よく来ました」
 そしてチロの方へ、大きく開いた両手を差し出しました。
「おう、白いきれいな猫……金の目……銀の目……おう、よく来ました」
 それからチロを抱きとって、部屋の中を歩きだしました。
「これ、名前、何といいますか」
「チロです」と、太郎は答えました。
「チロ……チロ……よい名前だ……チロチロ……」
 そして彼はもう、チロだけしか相手にしませんでした。
 部屋の中には人形や毬《まり》や汽車や、馬や猿《さる》や熊《くま》など、いろんなおもちゃがありました。彼はそれをとってきて、チロに見せました。チロはテーブルの上にじっとしていましたが、赤い人形の絵が描いてある大きなガラス玉を見ると、ひょいと片手を出し、それから匂《にお》いをかぎ、またちょっと片手を出しました。ガラス
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