金の目銀の目
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)お習字《しゅうじ》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)長|椅子《いす》の上

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)きゃはん[#「きゃはん」に傍点]
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      まっ白いネコ

 九州の北海岸の、ある淋しい村に、古い小さな神社がありました。その神社のそばのあばら屋に、おじいさんとおばあさんとが住んでいました。おじいさんは、神社の神主で、ふだんは、近くの人達のためにお祈りをしてやったり、子供達にお習字《しゅうじ》のけいこをしてやったりしていました。えらい学者だとの噂《うわさ》でした。
 この老人夫婦といっしょに、十二―三歳の男の子がいました。老人達の孫にあたる子供で、早くからふた親に死なれ、ほかに身寄りもないので、ひきとられて育てられてるのでした。上野太郎《うえのたろう》という名前で、頭が大きく、生まれつき大変りこうで、その上、おじいさんからいろんなことを教わって、深い、広い知恵を持っていました。
 おじいさんとおばあさんと孫と三人は、貧乏ではありましたが、楽しく、暮らしておりました。
 ところが、冬の寒い日、おばあさんは病気になって、亡くなりました。
 悲しみのうちに、お弔《とむら》いもすみました。
 それから毎日、五十日のあいだ、太郎は、おばあさんの墓におまいりしました。雨が降っても雪が降っても、欠かしませんでした。

 五十日目の日は、珍しい大雪でした。二、三日前から降り続いていたのが、夜になって急にひどくなり、朝起きてみると、野も山も見渡す限り、一面にまっ白でした。
「あの通りの大雪だから今日は止めたらどうだい」と、おじいさんは言いました。
「いいえ、今日でお終《しま》いだから、行ってきます。だいじょうぶです」と、太郎は答えました。
 足には、ももひきの上に、きゃはん[#「きゃはん」に傍点]をつけ、たび[#「たび」に傍点]を何枚もかさね、ぞうりをはき、手に毛糸の手袋をはめ、大きな頭には、おじいさんの大きな大黒帽《だいこくぼう》をかぶり、そして古いマントにくるまって、まるで人形のようにまんまるくなって、太郎は出かけました。
 雪はもう降り止んで、うすく日の光が差していました。どちらを見ても、どこを見ても、まばゆいほど、まっ白に光ってる世界です。誰も通る人もなく、犬の姿も見えず、小鳥の声も聞こえず、ただまっ白で、静かです。太郎は飛ぶようにすすんでいきました。
 街道からそれて、せまい坂道をしばらくのぼり、向こうの小高い丘の上、そこにおばあさんの墓がありました。
 太郎は墓の前の雪を払いのけ、青柴《あおしば》の枝を折ってきて供《そな》え、そして祈りました。
「おばあさん、もう五十日たちました。安らかに眠ってください。おばあさんがいなくて、ぼくはさびしいけれど……けれど……しっかり生きていきましょう」
 何度もおじぎして、そして帰りかけました。
 手足が冷たくかじかんで、身体《からだ》がこわばってくるようでした。でも、元気を出して、息をふうふうはきながら、雪を蹴散らして歩きました。
 墓地を出て、丘を下りかけ、大きな杉の木が一本立ってる曲り角まで来ましたときに、ばったり前に倒れました。
 太郎は自分でもびっくりして、頭をあげて見まわしました。そして、膝がしらで起き上がろうとすると……なおびっくりしたことには、杉の木の根元に、吹き寄せられて積もってる雪が、ひとかたまり、むくむくと動き出しました。おや……と思って、よく見ると、そのまん中に、金色と銀色との二つの玉が、ぴかりと光っています。……それが、猫でした。
 太郎は夢中に立ち上って、猫を抱きとりました。――一本の混じり毛もない、全身まっ白な小さな猫で、片方の目が金色で、片方の目が銀色で、長い尻尾《しっぽ》の毛がふさふさとして、白狐《しろぎつね》のようです。
 猫は太郎の胸にしがみついて、ニャーオ……と鳴《な》きました。
「おう、よしよし……寒いの……」
 太郎は猫をマントの中に入れてやり、上からしっかり抱きかかえて、うれしくてしようがありませんでした。もう寒さも疲れも感じませんでした。一散《いっさん》に家へ飛んでいきました。
「おじいさんおじいさん……猫がいたよ……あの大きな杉の木のところに……とてもきれいな猫ですよ」
 おじいさんは、こたつから出てきました。
「ほう、なるほど、これは珍しい、きれいな猫だ」
 太郎はマントも大黒帽《だいこくぼう》も手袋もたび[#「たび」に傍点]も、そこに放りだして、上がってきました。
「おじいさんの髭《ひげ》より、もっとまっ白でしょう 雪より[#「でしょう 雪より」はママ]白かったんだもの……」
 おじいさん
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