は大きな刀を打ち振り、太郎はピストルをポケットにしのばして、捕虜《ほりょ》の首きり役に出かけました。だけど、捕虜というのは、みな玄王の味方の者です。どうするつもりなのでしょうか。
城の中の広場です。匪賊の首領《かしら》は数人の手下をつれて、見物に出てきました。向こうには五十人ばかりの捕虜《ほりょ》が、荒縄《あらなわ》で縛られ、棒杭《ぼうくい》に結びつけられて、もう覚悟を決めたらしく、うなだれていました。あの不思議なふたりの男も、その中に交っていました。
「見事にやってみせるか」と、首領はキシさんに言いました。
「奇術《きじゅつ》の法でやってみます」と、キシさんは答えました。
「目にも止まらぬ早技《はやわざ》です」
キシさんは静かに進んでいきました。そして捕虜達の側に立ち止まって、大きな刀を二―三度打ち振りました。その時にはもう、奇術《きじゅつ》師のみなりこそしていますが、目は鋭く輝やき、勇気が全身に、みちみちて、勇ましい李伯将軍《りはくしょうぐん》に変っていました。
匪賊《ひぞく》達は、何かはっとして、ものにおびえたようでした。
「えー、やーあ……」
腹の底から、恐ろしい声を立てて、キシさんは刀を振りかぶりました。その刀がひらりと動いたかと思うと、一人の捕虜《ほりょ》の縄《なわ》が、ぱらりとたち切れていました。キシさんはおどりたちました。見事な手練《しゅれん》と早技とで、捕虜達をしばっている荒縄を、ぶつりぶつりとたち切りました。
匪賊達はどよめきました。混乱がおこりました。
キシさんは、つっ立って叫びました。
「匪賊ども、静かにしろ。今こそ名乗ってやる。玄王《げんおう》のもとの部下、李伯将軍とはおれのことだ。降参すれば命は助けてやる。さもなければ、みな殺しだ。覚悟して、返事をしろ」
太郎もピストルをとりだしました。
捕虜達は李伯将軍の名を聞いて、一度に、わーっと歓声《かんせい》を上げました。たちどころに、匪賊の数人は打ち倒されました。
匪賊の首領《かしら》は、ただ、あっけにとられていましたが、やがて、うなだれて、地面に両手をつきました。
「すみませんでした。ぞんぶんにしていただきましょう」
さすがに首領です。立派な覚悟でした。そこへ玄王が現われました。太郎の妙薬《みょうやく》で病気も治ったらしく、晴れやかな気高い顔をしていました。側にチヨ子がつい
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