た。
「大根でも芋《いも》でも人参《にんじん》でも、食べるよ」
 するとその人は、大根と芋と人参を、たくさん置いて行きました。
 海で地引網《じびきあみ》をやりますと、いろんな魚がたくさん、ぴちぴち跳ねながら、引き上げられました。
「まてまて……」
 と、漁師のひとりが言いました。
「太郎さんの白猫に、御馳走してやろう」
 そして大きな鯛《たい》や平目《ひらめ》を、持って来てくれました。
 魚や果物や、野菜が、たくさんたまりますので、太郎もおじいさんも困りました。しまいには、それを近所の貧乏な人達に分けてやりました。

 けれどもまた、その美しい白猫を、うらやみねたむ者もありました。
 太郎がチロといっしょに野原で遊んでいると、そっと、大きな犬をつれてきて、けしかけておどかす子供がありました。チロはびっくりして、太郎の肩に飛び乗って、せな[#「せな」に傍点]をまるくして怒っています。太郎はそのチロを胸に抱いて、相手をにらみつけてやりました。
「きみんとこのチロ、弱虫だね」
「何言ってるんだい。りこうだから、やたらに喧嘩《けんか》しないんだ」
 と、太郎は言い返してやりました。
「いざとなったら負けやしないよ。どんな高い木にだって登れるんだ」
「だけど、この犬みたいに水泳《みずおよ》ぎはできないだろう」
「できるとも。水も泳げるし、地にももぐれるし、空も飛べるし、何でもできるよ」
 言ってしまってから、太郎は、とんだことを言ったと、後悔《こうかい》しました。が、もう取り返しがつきませんでした。相手の子供は突っ込んできました。
「うそばかり言ってらあ。それじゃ、泳がしてごらん。海を泳がしてごらん」
 太郎はしばらく考えてから、答えました。
「泳がしてもいいが、濡れて風邪でもひくといけないから……そうだ、水にはいっても、毛のぬれないような薬を、持っておいでよ、そしたら、すぐに泳がしてみせましょう」
 相手の子供は困った顔をしました。そして、言いました。
「そんなら、地にもぐらしてごらん」
「いいとも。だけど、地面の中じゃあ、道に迷うといけないから……そうだ、地の中に、いっぱいローソクをつけてくれよ」
 相手の子供は困った顔を[#「困った顔を」は底本では「困って顔を」]しました。そして言いました。
「そんなら、空を飛ばしてごらん」
「いいとも。だけど、鳥じゃないから、やたら
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