な猫の玉乗りです。わーっと喝采がおこりました。太郎は目に涙をためて、チロを抱きとりました。
ほんとうに成功でした。思いがけないほどうまくいきました。太郎とチヨ子とキシさんとは、うれしさに涙ぐんで、手をとりあいました。一郎は、見物人が放り出してくれたお金を、拾い集めました。
「お金もうかる、お金もうかる」
キシさんがそう言ったので、三人とも笑いました。
そこへ、一郎のおじさんが出てきました。太郎からもらった薬が、不思議によくきいて、元気になってるのでした。そのお礼に、おじさんは手品《てじな》の道具をすっかり譲ってくれましたし、なお、キシさんの方は力技だし、太郎の方は猫の芸だからといって、本当の手品使いの芸を、いろいろ教えてくれました。
「これならだいじょうぶだ」
キシさんも、太郎も、そう考えました。そしていよいよ、興安嶺《こうあんれい》の奥の金銀廟《きんぎんびょう》まで、出かけることに決心しました。
三人は、手品使い……というよりも、奇術師《きじゅつし》になりすましました。松本さん夫婦も、下野一郎とそのおじさんも、ひどくわかれをおしんでくれました。そして、何かことがあったら、松本さんのところに、知らせることに約束しました。
奇術師になった三人は、多くの荷物を持って、大連《だいれん》から船で、山海関《さんかいかん》に渡りました。山海関から先は、奇術をやりながら行くのです。
鉄の馬車《ばしゃ》
山海関で、大事な用がありました。奇術をやりながら、興安嶺《こうあんれい》の山奥まで行くのですから、とちゅうでどんなことが起こるかわかりませんし、道に迷うことがあるかもしれませんので、まず第一に、じょうぶな馬車《ばしゃ》と馬とがいるのです。
馬は、すぐに見つかりました。たくましい、栗毛の馬を二頭買いました。ところが、じょうぶな馬車《ばしゃ》が、なかなかありませんでした。馬車屋に行ってききましたが、ふつうの馬車きりありませんし、新しくこしらえさせるには、大変手間どります。自動車ではだめなんです。それには、キシさんも太郎も困りました。
そしてある晩、むだにあちらこちらたずね歩いたのち、宿屋に帰りますと、並木の下のうす暗いところに、ひとりの少年が、しくしく泣きながら、立っていました。
「どうしたんだい」と、キシさんは親切にたずねました。
少年はなおしゃ
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