す、熊《くま》がいます……。
「わかったでしょう。それは、地図ですよ。さて、その金銀廟《きんぎんびょう》というのは……」
 老人は他の紙一枚よりだして、その始めの方を指しました。そこを眼鏡でのぞいてみると……白い塔が立っていて、その上に、小さな白猫が寝ています。よく見ると、太郎のチロとそっくりで、いまにも起きあがって駆け出しそうです。
 太郎は驚いてしまいました[#「驚いてしまいました」は底本では「驚いてしましいました」]。ちょうど、窓から夕日が差して、部屋の中がまっ赤になり、まるでおとぎばなしの国にいるような気もちでした。
「一郎がお世話になったお礼に、その地図をあげましょう」
 と、老人は言いました。
「金銀廟まで行くには大変だから、李伯将軍《りはくしょうぐん》でも道に迷うかもしれません。だから、その地図を見ながら行くといいんです。それは不思議なインキで書いたもので、その眼鏡でなければ見えません。けれど、人に見せてはいけませんよ。地図など持ってるところを見つかると、探偵《たんてい》とまちがわれて、ひどい目にあうことがありますよ」
 太郎はうれしくてたまりませんでした。もう、すぐにも金銀廟まで行けるような気がしました。白い塔……白い猫……それまでも地図に書いてあるんです。
 太郎は何度もお礼を言いました。そして、おじいさんからもらった薬――肌につけて大事にしてる薬を、少し老人にわけてやりました。そして帰って行きました。
 一郎がおくってきてくれました。ふたりはまた、腕を組みあわせて歩いていきました。
「きみのおじさんは変な人だね」
「なぜだい」
「変なものばかり持ってるじゃないか」
「そりゃあ、手品《てじな》使いだからね」
 そして一郎は立ち止まりました。
「あ、明日の手品はどうしよう」
「そうだ、これからキシさんに相談してみよう」
 ふたりは、あくる日のことを約束して別れました。

      奇術《きじゅつ》くらべ

 太郎はすぐに、キシさんの部屋へ行ってみました。不思議な地図のこと、不思議な眼鏡《めがね》のこと、仲よしになった一郎のこと、明日の手品《てじな》のこと、いろいろうれしいやら気にかかるやらで、いきなり、キシさんがいる部屋に飛び込んでいきましたが、入口で、びっくりして立ち止まりました。
 部屋の中はごったがえしていました。一郎からあずかった手品の道具
前へ 次へ
全37ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング